「これからの暮らし」の研究

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泉北ホーム株式会社代表

山本 隆

  • 1953年

    大阪府生まれ。

  • 1976年

    山本工務店として設立。

  • 1990年

    「泉北ホーム」に社名変更。また狭小地における建て替えに特化するべく、阪神淡路大震災で耐震性が注目された2×4工法に絞り「都市型3階建て」住宅を市場へ投入する。

  • 2004年

    “フル装備の家”を発表。

  • 2014年

    ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー特別優秀賞を受賞。

  • 2015年

    同上、優秀賞と審査委員賞をW受賞。

[実績]
大阪府下2×4工法3階建て注文住宅施工棟数 8年連続第1位獲得
大阪府下2×4工法2階建て注文住宅施工棟数 4年連続第1位獲得

※プロフィールは2016年時点のものです

近畿大学建築学部学部長教授

岩前 篤

  • 1961年

    和歌山県生まれ。

  • 1986年

    神戸大学大学院を終了後、ハウスメーカーに入社し、住宅の断熱・気密・防露に関する研究開発に携わる。

  • 1995年

    神戸大学にて博士号を取得。

  • 2003年

    春に同社を退社したのち、近畿大学理工学部建築学科に助教授として就任。

  • 2009年

    同教授に就任。

  • 2011年

    新設された建築学部の学部長に就任し、現在に至る。

  • 2016年

    春、泉北ホーム主催の健康住宅セミナーにて講演。

※プロフィールは2016年時点のものです

2016年8月23日 取材

進化し続ける泉北ホーム

私たちは「泉北ホーム」に社名変更した当時、他社が避けていた狭小地での建て替え、それも3階建てというニッチな市場に特化しました。さらに、阪神淡路大震災で耐震性が証明された2×4工法を使った3階建ての建築を進めたことで、大阪府下の2×4工法3階建ての年間着工棟数で1位を頂き、その後も大阪府下の全ての工法で3階建て年間着工数1位を7年連続で獲得しました。おかげさまで「泉北ホームは3階建て、3階建てといえば泉北ホーム」と言われる企業になりました。

今後はお客様が本当の意味で快適に暮らせる家を目指すべく健康を重視した家を考える中で、岩前教授の「低温は万病の元」という考え方に共感させていただき、今回の「+℃ermo」という商品が出来ました。ZEHの補助金をもらうための家づくりではなく、お客様の健康を考えて商品開発をした結果そのものが評価され、2014年にハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジーで特別優秀賞、2015年に優秀賞と審査委員賞をW受賞させていただきました。そして、この「+℃ermo」は“お客様の手に届きやすい価格で”ということも重視した商品です。※

岩前教授には、全社員・全業者に向けたセミナーで「低温は万病の元」についてお話しいただきました。泉北ホームは今後もさらに健康被害のリスクを抑える健康住宅に力を入れて取り組んでいこうと考えています。そこで岩前教授にご質問なんですが、低温といっても許容範囲があると思うのですが基準はどれくらいでお考えですか?

人間が健康的に暮らせる温度は10℃が基準

基準というお話であれば、人間が健康的に暮らすことができる温度は10℃が基準といっていい。しかし、これは一つの目安であり、研究者としての理想は20℃。それは人間にとっての理想の温度でもあると考えられています。なぜ、それが理想の温度であるかというと、「低温は万病の元」という議題にもあったように低温が人間の体に健康被害をもたらすからです。

ありがとうございます。まずは、岩前教授のおっしゃる、人間が健康的に暮らすことのできる10℃を下回らない家を筆頭に普及させていき、目標としては20℃という人間の理想的な温度の家をどんどん普及させていきたいと思っています。そのために一部の高所得者だけでなく、多くの方が手に入れることのできる価格で提供することが重要であると考えています。

そこで泉北ホームとしては健康とお金のバランスを考えた家づくりに取り組みたい。お金があればなんでもできるだろうけれど、一部の高所得者だけではなく「マイホームを建てたい」そう思う多くの方々にも健康的で素晴らしい住宅を、と思っています。

健康的な生活を営む上で、断熱・気密性能の向上というものは非常に重要です。しかしこのような性能が高い家、つまり「良いもの」は価格が高いということも忘れてはいけません。

安かろう悪かろうはあかん、と思いました。岩前教授のセミナーの後、ただでさえ大阪の断熱性能の基準は低いと言われ、2020年に義務化される長期優良住宅(概ね8℃を下回らない家)以下の断熱性能の家は売ってはいけない、と感じました。そのため泉北ホームの最低基準を長期優良住宅に設定したわけです。

大阪の建築水準を底上げしたい

残念なことに大阪は家に対してのお金の価値観・意識が低いのではないか、と考えられています。大阪の人は「今は健康だから」と未来に対する健康への意識が低く、設備・見た目にこだわりを強く持っている印象ですね。

私たち泉北ホームが良い家を標準化すれば、他業者も追随してきます。それを実践すべく関西で初めて断熱性能が高いYKKAPの樹脂窓を標準化させていただきました。やはり、考えることは会社の利益だけではなく大阪の建築水準の底上げです。

おっしゃる通り、目先の利益だけを求めるのではなく、社会に貢献できるような会社が必要であると考えています。目先という話でいけば、会社だけではなく家を建てようと考える方々も変わる必要がある。

例えば海外に行くと、なぜ日本人は初期費用であるイニシャルコストをまず初めに聞いてハウスメーカーを選ぶのか不思議がられるものです。ドイツなどでは、ランニングコストやメンテナンスコストなどを全部含めた20年~30年間にかかるトータルコストを比較し、そこで断熱性能やコストパフォーマンスの良さを判断し、ハウスメーカーを選びます。

私たち泉北ホームも建築後30年間でかかる光熱費やメンテナンスコスト、ランニングコストなどを抑えた上で温度が13℃以下にならないお家を、お客様が買いやすい価格で作っていきたい。視野を広く持ち、何年経ったとしても本当にお客様にとって良い家をつくり、そして、ご紹介をいただいたり、口コミで売れるぐらいの良い関係性を、これからも地域と築いていきたいと思います。

紹介という話であれば極端な営業担当だと、自身が売った家に近寄らないこともあるくらいです。それは、将来のことはあまり考えず、イニシャルコスト(売れる低品質・低価格な商品)ばかりで家を売っているから、家を建ててくださった方と何年か後に会えば、印象が良くなかったりと余計な仕事が増えるという考えがあるからです。そういう物売りの会社では、口コミとか紹介というレベルではないと感じています。

コストと健康の両立

泉北ホームはお客様のご予算の中で、設備・性能・構造のバランス良いベストな家づくりを心がけています。その中の一つの「スマイルパッケージ」という商品は、価格訴求型で皆様にお求めいただきやすい商品だからこそ、特別価格で長期優良住宅・構造計算書付であり、設備も大手メーカー同等のものを使用するなど限られたコストの中で最善を尽くしています。それは、長期優良住宅を泉北ホームの最低基準にしているからです。

その性能の住宅でこれは安いと思います。しかし、我々研究者としては、あと500万円を足してさらに断熱性能を高めるということにお金は惜しみません。

家の断熱性能にはあまり興味がなく、とにかく安くしてほしいとおっしゃる低予算の方にも最低限の断熱性能を備えた家に住んでいただきたく、価格も抑えつつある商品を作ったんです。

価値観の違う人にも最低限の基準を満たした家を売る、というのは素晴らしいことだと思います。しかし、価値観が違う人にもしっかりと正しい情報を伝えることも大切だと思います。生活において何を重視してお金をかけるかという価値観の違いはあります。

例えば、断熱性能が低い低価格住宅に住みながらも、高級車に乗る人も多くいます。しかしながら、性能を高めて住宅における健康被害のリスクを抑えることは大いに重視すべきことです。年間の交通事故による死亡者数が約4千人である一方、ヒートショックに関連する死亡者数が約1万4千人であるというデータからも家の中における“低温”というものは大きなリスクであることが判明しており、それにおける対応は必須です。そのリスクをデータとともに提示すると6~7割の人が賛同している一方、1割の人はデータではなにも分からないと否定的であります。

泉北ホームは健康住宅へ

そうなんですね。私は聞いて素直にびっくりしました。ちなみに、岩前教授はなぜ健康住宅へ?

私自身がそもそも寒がりということもありますが、祖父が冬の夜中に家のトイレで倒れました。そして、また冬に同じトイレで叔父が倒れたのです。なぜ、冬に同じ場所で倒れたのか、そこに疑問を抱き、そして健康と住宅の関連性を調べ始めました。

そのことがきっかけだったんですね。泉北ホームで、健康住宅を先導している設計部長は二児の父です。そんな設計部長が、同じく岩前教授の考える「低温は万病の元」という考え方に賛同し、父であるからこそ、自身が守りたい家族のために健康住宅に本気で取り組み始めました。しかし、普及させなければ意味はない、という思いもあります。一定の収入がある人だけが自身の守りたいものを守ることができるというのではなく、マイホームを夢見る方々にこそ健康で快適な家を普及させたい。そのためには、良い家を安く。それは自社一貫施工をしているからこそ可能であり、下請け会社に丸投げしていたらできないことです。自分の会社で全てやるのが当たり前だという感覚で今までやってきました。

セミナーを聞いて、そして今回の岩前教授との対談を行った上で、教授のおっしゃっている理想の家を建てたいと思いました。そして、教授の理想の家を、健康とお金のバランスをとった上でどんどん普及させていきたい。それは大阪の建築水準の底上げを可能にすると思います。

物凄くありがたいお話です。

理想は20℃を下回らない家ですが、その家を建てるのにはかなりコストがかかります。今は、長期優良住宅(概ね8℃を下回らない家)を泉北ホームの最低基準にしていますが、大阪の建築水準を底上げするためにもまずは、岩前教授が仰る人間が健康的に暮らせる温度である『10℃を下回らない家』を泉北ホームの最低基準にするべくこれからも企業努力を続けて参ります。本日はありがとうございました。

ありがとうございました

※こちらのインタビューは2016年8月23日に行われたものです。

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